top of page

疾駆

 田豹、馬霊の軍が汾陽を取り囲んでいた。

 戴宗の報告を受けた盧俊義は、挑発に乗らず籠城を決めた。

 数日して、待っていた援軍が到着した。

 郝思文、宣贊に護衛された公孫勝と、もう一人道士がいた。その道士は喬道清と言い、公孫勝の兄弟子だという。

 思い出した。盧俊義に敗北した孫安が、昭徳に向かいたいと言った。その目的、それが喬道清を説得するためだった。

 なるほど、公孫勝の力もあって、孫安は成功したという訳か。

 一方、孫安は宋江軍に加わったという。また張清が田虎軍に潜入していると聞き、この戦いも長くはないと盧俊義は感じた。

 喬道清が言う。

「よくぞ堪えてくれました。私と一清とで馬霊を攻めましょう」

 早速、馬霊軍の攻撃があった。

 盧俊義は三手に分かれる策を取る。

 公孫勝と楊志、欧鵬、鄧飛の隊。

 喬道清と陳達、楊春の隊。

 そして盧俊義が率いるは宣贊、郝思文の隊。

「盧俊義どの」

 出陣前、戴宗が神妙な面持ちでやってきた。

「私も、連れて行ってくれませんか」

「戦に、か」

「言いたいことは分かります。私は武芸も人並み以上ではありませんし、戦の経験もありません。ですが」

「馬霊、か」

 戴宗は言葉に詰まった。分かっている。馬霊に関心があるというだけで、従軍させてくれなど、あってはならない事だ。

 だが盧俊義は意外にも許可を出した。

「その代わり、己の身は己で守るのだ。そして決して無茶はするな。己の行動ひとつで、この戦の趨勢が変わることもあると心してくれ」

 その言葉は、重かった。だが盧俊義のためにも、梁山泊のためにも覚悟を決めた。

 北、東、西門が開かれ、それぞれの軍が出陣した。

 やっと出てきた梁山泊軍に、馬霊軍が殺到した。

「金輪如来の索賢、いざ」

「無光明王の党世隆、覚悟」

「変面菩薩の凌光、死ねいっ」

 相対するのは盧俊義軍。

 郝思文が索賢と馳せ違う。索賢の得物の金輪が、頬を掠めた。馬首を返し、再び馬を駆けさせる。郝思文は三尖両刃刀を斜に構えた。

 敵の中で妖術を使う者は馬霊を除けば、二人と聞いている。この三人は違うようだ。

 ならば問題は、ない。

 二騎が再び馳せ違う。索賢が腹から肩にかけて、血を噴き出させた。下方から切り上げられた両刃刀で、両断されたのだ。索賢はそのまま落馬して果てた。

 馬を止め、宣贊と党世隆が打ち合っている。

 漆黒の衣を纏った党世隆は、その刀までも黒かった。鋭い刺突が宣贊を襲う。剛刀で捌きつつ、距離を空ける宣贊。力は宣贊と互角といって良いほどだ。さらに刀の軌跡が変則的で、見えない角度からの攻撃が厄介だった。

 またもふいに刀が消えた。

 宣贊は両手を広げ、体を晒した。

 刀はがら空きの胴に狙いを定めた。

 厄介だが、狙いが分かれば難しくは、ない。

 宣贊は瞬時に力を込め、党世隆の刀を叩き折った。そして唖然とする党世隆を、そのまま斬り伏せてしまった。

 盧俊義に向かって、凌光が駆ける。槍を頭上で大きく回している。

「ひゃはは、槍の餌食にしてくれるわ」

 鋭い突きが繰り出される。盧俊義は無言で淡々と捌いてゆく。敵わぬと見た凌光が、少し下がり、唸り声を上げた。

「ふうう、この野郎。おとなしくやられちまえよ」

 凌光が顔を真っ赤にして突っ込んできた。

 それを動かずに待つ盧俊義。

 渾身の力を込めた槍が、凌光の肩口を切り裂いた。

 凌功が悲鳴を上げ、馬から転げ落ちた。

 そこに盧俊義が、馬上から槍を突きつける。

「ひい、た、助けてくれ。たすけ」

 跪き、泣き叫ぶ凌光の胸を槍が胸を貫いた。

 ぽつりと、

「怒ったり泣いたり、忙しい男だな」

 盧俊義は血を吐く凌光を一瞥し、軍に号令をかけた。

「敵将、田豹を追うぞ」

次へ

© 2014-2025 D.Ishikawa ,Goemon-do  created with Wix.com

bottom of page