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再起

 手紙を送ってから十日あまり。

 日が沈み、夜がさらに暗くなるのを見計らい、やっと唐斌が姿を見せた。

「よく来てくれた、待ちかねたぞ」

「すまんな。梁山泊の連中に見つかると台無しだからな」

 うむ、と山士奇が頷く。

 唐斌が作戦を伝える。

 真夜中、文仲容と崔埜が一万の兵を連れ、抱犢山の東へ出る。兵は軽装で、音を立てずに進み、明け方までに梁山泊軍の背後に回る。

「挟撃だな」

「そっちも準備を怠らないでくれ」

「わかっている。まあ酒でもどうだ」

 山士奇が唐斌と杯を合わせる。しばし呑み、その時を待つ。

 月が出た。半分以上欠けており、辺りは暗い。

 ふいに唐斌が立ち上がり弓矢を手にすると、外へ向かいだした。山士奇がそれを追った。

「どうしたのだ、唐斌」

「どうも胸騒ぎがするのだ」

 二人が城壁へ出た。目を眇め、闇を見る唐斌。静かに矢をつがえる。弓を構え、一点を見つめる。

 あ、と山士奇が声を漏らしそうになった。闇に目が慣れ始めると、林の茂みの中で何かが動くのが分かった。梁山泊の斥候か。

 鋭い音を立てて矢が飛んだ。矢が斥候のひとりに命中した。もう一人が、射られた兵を引きずるように退散して行った。

 山士奇が呻いた。

「ううむ、さすがだな。見事な腕前よ」

「ふん、臭いがしたのだ。こそこそと嗅ぎまわる鼠のな」

「さあ、飲み直そう。警備を増やすよう通達しておく」

 うむ、と頷き、唐斌はしばらく闇を見つめていた。

 

 深夜の軍議。

 宋江と呉用(ごよう)が、一枚の布に目を落としている。

 壺関へ偵察に出した斥候が射られた。だがその矢には鏃が鳴く、布が巻きつけられていた。そしてそれには文字が書きつけられていたのだ。

 手紙の主は唐斌。

 黎明、配下の者を梁山泊軍の背後に回らせ、壺関と攻撃するふりをする。唐斌は号砲を合図に討って出た後、機を見て壺関を奪う算段である。速やかに準備して進軍してほしい、というものであった。

 にわかに信じ難い内容だ。だが信じるに足る文言が付記されていた。

 唐斌は自分の友である、という関勝直筆の言葉だった。

 呉用がゆっくりと羽扇をくゆらせる。

 宋江はほっとした表情だ。

「驚いたが本物のようだ。蕭譲が間違いないと言っているしな。これで壺関を攻略できる。関勝には礼を言わねばなるまい」

「お待ちください。確かに関勝の文字には違いありませんが、罠でないとも言いきれません。慎重には慎重を期し、背後にも備えをするべきです」

「関勝を信じぬのか」

「何事も疑ってかかるのが私の役目ですから」

「わかった、お主の言う通りにしよう。私の役目は信じる事だ」

 宋江の言葉に、呉用が微笑んだ。

 山際が白みはじめた。

 夜明けの静寂を破る砲の音が轟いた。

 唐斌と山士奇が城壁に上る。梁山泊軍の後方に、砂煙が上がっている。文仲容と崔埜に襲われ、梁山泊軍が壺関へ追いたてられている。

「出るぞ、唐斌」

 山士奇が叫び、駆けた。

 唐斌は城外の様子をもう一度見やり、ゆっくりと追った。

 山士奇は史定とともに一万を率い、先駆けた。唐斌は陸輝と一万を従え、後方から援護する。壺関の守備には竺敬(じくけい)と仲良が残った。

 壺関軍を見て梁山泊軍が動揺したのか、動きが乱れた。

 好機だ。山士奇は四十斤もの棒を風車(かざぐるま)のように回し、突っ込む。壺関軍と梁山泊軍がぶつかった。

 梁山泊軍の左右から別動隊が現れた。梁山泊軍もそれなりの備えをしていたようだ。だが挟撃は成功している。あとは叩き潰すのみだ。

 唐斌は梁山泊の兵と数度、刃を合わせただけで馬首を返し、壺関の門前に陣取った。陸輝が何か叫んでいたが、仁王のようにじっとそこに留(とど)まった。

 別の号砲が鳴り響いた。

 梁山泊軍の中から歩兵隊が飛び出した。李逵、鮑旭を先頭に左右を項充、李袞が守っている。

「なんだ、あいつら」

 山士奇が目を剥いた。

 ただの歩兵ではない。飛刀や投鎗を放ちながら進み、騎兵も寄せ付けない暴れぶりだ。近づいても楯兵に阻まれ、李逵や鮑旭の餌食となってしまう。

 山士奇は舌打ちをし、目の前の兵を斬ってゆく。

 だが、おかしい。乱れていると思われた梁山泊軍の動きが、そうではないように思われてきた。どの隊も猛然と戦い、徐々に壺関へ近づいているようだ。

 その場を史定に任せ、山士奇が壺関へ駆け戻る。

 城門の前、そこに唐斌がいた。

 唐斌は手にした矛を、山士奇に向けた。

「何をしている。城に戻るのだ、そこをどけ」

「天王、唐斌ここにあり。終わりだ北覇天。お前とは共に天を戴けないようだ。降伏してもらおうか」

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