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再起

 手を出すのは申し訳ないと思ったのだが、

「なんて言いやがったんだぜ、あの野郎」

 唐斌が杯を呷り、苦い顔をする。

「だが、嫌味には聞こえなかったのさ。奴は、孫安は本心で言ってたんだ」

 単廷珪と魏定国がなんとなく困った顔をした。

 その時、孫安はすでに田虎と関わりを持っていたという。

「唐斌どの、そしてお二方、抱犢山をこのままお任せしたい」

「どういう事だい」

「ここは壺関から昭徳に至る前の防壁となりうる場所だ。ここにあなた方がいてくれれば、心強い」

「ああ、違う違う。そう言う意味じゃない。任せたいとはなんだ。助けてくれたとは言え、田虎とやらの為に働く気は毛頭ないぜ」

 唐斌が孫安を見据えた。不穏な空気が場に満ちる。

 孫安が快活に笑った。

「これはすまない。気に障ってしまったかな。いい直そう。力を貸していただきたい、唐斌どの。あなた方の力を見込んでの話だ。本当は抱犢山を奪っても良かったのだがね」

 文仲容と崔埜はぞくりとした。

 孫安はさらっと言ってのけた。奪っても良かったのだと。そして孫安とその配下たちはそれができる連中だ。これは提案ではない、遠回しな強制だ。

 唐斌は胸を張り、答えた。

「怖いこと言うねえ。わかった、仕方あるまい。ただし、こっちも言わせてもらう」

「何だね」

「俺は田虎など知らぬ。だから、お主のために抱犢山を守ることにしよう。それで良いな」

「良いだろう」

 では頼んだぞ。そう言って孫安は風のように去ったという。

 語り終え、文仲容が長い息を吐いた。

 唐斌は田虎に従っている訳ではない。それをどうしても伝えたかったのだ。

 それが唐斌の旧友ならばなおさら、誤解させたままではいられなかったのだ。

 分かっているさ、そういう目で関勝が唐斌を見た。

「田虎軍ではない事は分かったが、どのみちわしらがここにいては迷惑になる。行くぞ、梁山泊軍を援護する」

 待て、と唐斌が言った。

 一同の視線が唐斌に注がれた。

「お前たちだけで行ってどうなるものでもあるまい」

「行ってみなければ分かるまい」

「俺たちの力を使え」

 一拍、関勝が考える。

「良いのか」

「良いさ。俺は抱犢山を守っていただけだ。それに孫安への義理などとっくに果たしている。なあ、そうだろ」

 文仲容と崔埜に訊ねる。二人とも、良い顔で笑った。

 唐斌がすっくと立ち上がり、関勝と向かい合った。

「せっかくここで再会できたのだ。お前の友、天王の唐斌として戦うことにする」

「まことか、唐斌。これは万軍の味方を得たようなものだ」

「相変わらず、大げさなんだよ、お前は」

 郝思文は、声にこそ出さなかったが喜びに震えた。

 大刀と天王が、再び並び立ったのだ。

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