108 outlaws
再起
二
手を出すのは申し訳ないと思ったのだが、
「なんて言いやがったんだぜ、あの野郎」
唐斌が杯を呷り、苦い顔をする。
「だが、嫌味には聞こえなかったのさ。奴は、孫安は本心で言ってたんだ」
単廷珪と魏定国がなんとなく困った顔をした。
その時、孫安はすでに田虎と関わりを持っていたという。
「唐斌どの、そしてお二方、抱犢山をこのままお任せしたい」
「どういう事だい」
「ここは壺関から昭徳に至る前の防壁となりうる場所だ。ここにあなた方がいてくれれば、心強い」
「ああ、違う違う。そう言う意味じゃない。任せたいとはなんだ。助けてくれたとは言え、田虎とやらの為に働く気は毛頭ないぜ」
唐斌が孫安を見据えた。不穏な空気が場に満ちる。
孫安が快活に笑った。
「これはすまない。気に障ってしまったかな。いい直そう。力を貸していただきたい、唐斌どの。あなた方の力を見込んでの話だ。本当は抱犢山を奪っても良かったのだがね」
文仲容と崔埜はぞくりとした。
孫安はさらっと言ってのけた。奪っても良かったのだと。そして孫安とその配下たちはそれができる連中だ。これは提案ではない、遠回しな強制だ。
唐斌は胸を張り、答えた。
「怖いこと言うねえ。わかった、仕方あるまい。ただし、こっちも言わせてもらう」
「何だね」
「俺は田虎など知らぬ。だから、お主のために抱犢山を守ることにしよう。それで良いな」
「良いだろう」
では頼んだぞ。そう言って孫安は風のように去ったという。
語り終え、文仲容が長い息を吐いた。
唐斌は田虎に従っている訳ではない。それをどうしても伝えたかったのだ。
それが唐斌の旧友ならばなおさら、誤解させたままではいられなかったのだ。
分かっているさ、そういう目で関勝が唐斌を見た。
「田虎軍ではない事は分かったが、どのみちわしらがここにいては迷惑になる。行くぞ、梁山泊軍を援護する」
待て、と唐斌が言った。
一同の視線が唐斌に注がれた。
「お前たちだけで行ってどうなるものでもあるまい」
「行ってみなければ分かるまい」
「俺たちの力を使え」
一拍、関勝が考える。
「良いのか」
「良いさ。俺は抱犢山を守っていただけだ。それに孫安への義理などとっくに果たしている。なあ、そうだろ」
文仲容と崔埜に訊ねる。二人とも、良い顔で笑った。
唐斌がすっくと立ち上がり、関勝と向かい合った。
「せっかくここで再会できたのだ。お前の友、天王の唐斌として戦うことにする」
「まことか、唐斌。これは万軍の味方を得たようなものだ」
「相変わらず、大げさなんだよ、お前は」
郝思文は、声にこそ出さなかったが喜びに震えた。
大刀と天王が、再び並び立ったのだ。