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過信

 花小妹がうつむいていた。花栄の妹である。

 花栄が腕を組み、複雑な顔をしていた。

「その、お前はどう思っているのだ」

 花小妹は困ったような、恥ずかしいような顔のままだ。

「あなた、いい加減にしなさいな。困ってるじゃないの」

「うむ、しかし」

 妻の崔氏に言われ、花栄も口ごもる。崔氏はそんな二人を微笑ましく見つめると、台所へ行ってしまった。

 花栄が、崔氏の姿が見えなくなったのを確かめてから、小声になった。

「お前の気持ちを確かめておきたいのだ。秦明の事を、どう想っているのだ」

 花小妹は唇を固く引き締めてうつむいたままだった。腿に置いた手も固く握りしめられている。しばらく沈黙の時間が続いた。

 やがておもむろに花小妹が面(おもて)を上げた。

「あの方には、秦明さまには、奥方さまがおられました」

 花小妹は顔を赤らめてはいるが、どこか寂しそうな目をしていた。花栄はその言葉を聞いて深く溜息をついた。

 秦明には妻がいた。まだ青州にいた頃である。

 しかしその妻が、青州知府の慕容彦達によって命を奪われた。

 清風山に逃げた花栄と宋江の討伐軍を秦明が指揮したのだ。しかし、敗れた秦明が殺されることなく解放された事を知り、青州知府の慕容彦達は疑念を抱いた。もともと猜疑心の塊のような男である。秦明が清風山と通じているのではないかと勘ぐったのだ。

 青州の城門に、槍の先に吊るされた妻の首を、秦明はいまだに夢に見てうなされるという。

 花栄にも、秦明と同じ事が起きていたかもしれないのだ。まだ小さい息子は今は南に住まわせているが、妻と妹を殺されたなら、などと考えたくもなかった。秦明の怒りと悲しみは一体どれほどのものだっただろうか。

 その後、秦明は弟子の黄信と共に清風山に合流、青州軍の攻撃から逃れるため梁山泊をを目指した。その時である。敵兵に襲われた妻と妹を、秦明が身を挺して救ってくれたのだ。

 重傷を負い、意識を失った秦明を、花小妹は甲斐甲斐しく世話をした。それは梁山泊に入山してからも変わる事がなかった。時に食事を多く作って秦明に届けたり、身の回りの世話などをするようになっていた。

 花栄は、命を救われた礼なのだろうと思っていた。しかし妻によると、どうも花小妹はそれ以上の想いを秦明に抱いているのだという。崔氏は、彼女に直接聞いた訳ではない。

「分かりますよ、女なら誰だって。ねえ」

「本当さね。男っていうのは戦の事ばっかりで」

 いつの間にか仲良くなっていた顧大嫂と共に妻が言い、花栄はなるほどと思うしかなかった。

 

「妹も、そろそろ良い歳でな。どこかに良い男でもいれば嫁がせようと思っているのだが、どう思う、秦明」

「ど、どうと言われても。良いのではないか」

 秦明が杯をあっという間に空け、慌てて酒を注ぐが、それもすぐに飲み干してしまった。

「しかし花栄、お主の妹だ。どこの馬の骨かもわからん奴に嫁がせる訳にも行くまい」

「そうなのだよ。これは顧大嫂から聞いた話なのだが、先ごろ来た扈三娘は祝家荘の祝彪の許婚だったそうだ。これに扈成という兄が乗り気ではなく気をもんでいたのだと、扈三娘が言っていたらしい。私も、その扈成の気持ちが分かるよ。大事な妹だ、そんな男には嫁がせられないだろうな」

 花栄も杯を空け、秦明の目を見据える。

「そこでお前に相談に来たという訳なのだ。誰か良い男はいないかね」

「そうだな、誰が良いかな」

 それきり秦明が黙ってしまった。花栄が話しかけるが、どこか上の空で淡々と杯を空けてゆく。

 秦明は花小妹の事を思い浮かべた。祝家荘戦で秦明は捕縛された。そして祝彪から拷問を受けた。傷自体はさほどでもなかったのだが、帰還し療養所で治療する秦明を、何度か花小妹が見舞いにきた。戦の後で人手が足りなかったのもあったのか、花小妹は療養所の仕事を手伝っていたのだ。

 良い娘だ、と秦明は思った。自分の事を気にかけてくれることはもちろん嬉しいが、他の怪我人も分け隔てなく手当てする姿が、素直に好ましく思えた。

 その花小妹を嫁がせる、と花栄が言った。己がどうこう言える件ではないが、素直に喜べない自分がいる事に秦明はもどかしさを感じていた。

 目の前で花栄がにやりと笑った。

「実は、もう決めているのだ」

 え、と秦明が思わず声を漏らした。花栄かふいに真顔になった。

「妹はぜひお主にと思っているのだ、秦明」

 え、とまた秦明が漏らした。

「お主はどうかね、といっても断らせんけどな。妹を頼まれてはくれんか」

「わしが、か」

「うむ、お主しかおらん」

「しかし、小妹どのの気持ちが」

「大丈夫だ、あいつもお主の事を思っておる」

 秦明が顔を赤くしていた。怒っているのではなく、秦明がこんなに顔を赤くしているのを花栄は初めて見た。

「わしは不器用な男だ。妹ごの事を幸せにしてやれるかわからんのだぞ。わしは妻を」

 そこまで言い、秦明が口ごもってしまう。花栄も神妙な面持ちになる。

「奥方を失った気持ちを察する事ができる、などと私は言う事ができない。だけど、お主になら安心して妹を任せられる。どうかね」

 またしばらく沈黙が続いた。秦明は手にした杯に映る自分を見つめていた。

 そして、分かった、と秦明が言った。花栄が満面の笑みを浮かべた。

「そうそう、私の事を義兄(にい)さんなどと呼ぶのはやめてもらうぞ。尻がむず痒くてたまらんからな」

 秦明と花栄が弾けるように笑った。

 雷横が上半身をはだけ、汗を拭っていた。

 遠くに朱仝と坊ちゃんが歩いているのが見えた。声をかけようと思ったが、その前に蔣敬がこちらにやって来てしまった。黄門山から参加したという計算の達人らしく、会計出納の類を一手に引き受ける事になった男と聞いていた

「助かります、雷横どの。本当は、槌ではなく刀を振るいたいところでしょう」

 雷横は梁山泊に入り、武器の生産を任されることになった。蔣敬が言ったように、軍に編入されるものとばかり思っていた。

 これは呉用が決めた事らしい。都頭になる前に雷横はさまざまな職を経験していた。鍛冶屋もしていた事があり、そこそこの腕を持っていたのだ。

「先の祝家荘戦でだいぶ減ってしまいましてね。これからの事を考えると、いままでの速度では間に合わないと考えていたところなのです」

「だが俺も鍛冶としての腕はまだまだだ。もっと質を良くし生産を増やすならば、さらに腕の良い職人が必要だろうな」

 その通りです、と蔣敬も頷いた。

 梁山泊に入山希望の者が増え続けているという。しかし、晁蓋暗殺未遂の一件もあり、いまは充分に厳選して入れているという。朱貴の仕事も、四方に酒店ができた事でだいぶ軽減されたようだ。

 蔣敬は雷横に別れを告げ、忙しそうに早足で去って行った。

 同じく黄門山からの陶宗旺は食料の充分な増産を叶え、その管理を李家荘の主であった李応そして杜興が担っていた。今足りないのは武器という訳か。

 近隣の役所を襲い奪ってくるのも一つの手ではある。しかし梁山泊にとってはたかが知れた数だろうし、方法としては危険なものである。わざわざ戦を起こすことはないのだ。晁蓋らの考えは、その先にあるというのだから。

 その時に自分はどんな役割を果たせるのだろうか。蔣敬の言葉に触発された訳ではないが、刀を振ろうと雷横は修練場に足を向けた。

 一般の兵たちは休憩時間のようだった。まだ残って稽古をしている者がいたが、その中のひとりに目が止まった。

 それは欧鵬だった。欧鵬は黙々と槍を振っていた。

 額には玉のような汗が浮かんでおり、槍を振る度にそれが飛び散った。雷横は自分が刀を振りに来た事も忘れ、しばし欧鵬を見ていた。技はもちろん他の兵たちよりも抜きんでていた。しかしそれだけではない、何か鬼気迫るものを、欧鵬から感じたのだ。

「どこか体を痛めてるな、あんた」

 その言葉に、欧鵬は槍を振る手を止めた。

「やはり、分かるか。あんたは」

「雷横だ」

「私は欧鵬という。あんたの事は聞いている。宋江どのと同じ鄆城出の都頭だったと。挿翅虎と呼ばれているとか」

 挿翅虎の名を出され、雷横ははにかんだような顔をした。

「あんたも、摩雲金翅だろ」

 と言われた欧鵬は反対に顔を曇らせた。

 欧鵬は先程の蔣敬と同じ黄門山から来たという。しかもその黄門山の頭を務めていたのだ。雷横が見抜いた体の不調は、過日の祝家荘戦でうけた傷だった。

 祝家の三兄弟の師匠であった欒廷玉という男の鉄鎚を、まともに腹に受けた。そこで欧鵬は戦線を離脱した。

 欧鵬が思いつめたように槍を見つめている。

「器ではないのだ」

 欧鵬がぼそりと言った。雷横はその言葉に眉をしかめ、刀を抜いた。そしてその刀を欧鵬に向けた。

「いっちょ、やってみねぇか」

 そう言うやいなや、雷横が欧鵬に斬りかかった。

 完全に気を抜いていた欧鵬だったが、すんでのところで刀をかわし、槍を構えた。本気の一撃だった。あれが当たっていれば、と思うとぞっとした。 

「ちょ、何を」

「なんだか、難しそうに思いつめてるからよ。そんな細かい事、体を動かしてりゃどうでも良くなるぜ」

 突如、雷横との距離が縮まった。欧鵬の目前まで、ひと跳びで詰めたのだ。欧鵬は雷横の刀を防ぐのが精一杯だった。

「なるほど、挿翅虎か」

 腹に痛みが走った。だが手加減してくれる雷横ではなさそうだった。欧鵬の目つきが変わった。雷横がそれを感じ、嬉しそうに笑った。

 雷横の刀が縦に、横に、斜(はす)に、と変幻な手で欧鵬を攻め立てる。槍の間合いにもっていきたい欧鵬だったが、離れても雷横は一瞬で間(ま)を詰めるのだ。腰に佩いている小刀(しょうとう)を抜こうかと思うのだが、その隙さえも与えてはくれない。

 欧鵬はいつの間にか壁際に追い詰められていた。

 雷横が渾身の一撃を放った。

 負ける。欧鵬は思った。

 いや、負けたくない。その思いが欧鵬を動かした。

 欧鵬は槍を逆手に持ち、思い切り足元に突き立てた。そしてその勢いで体を持ち上げ、槍の柄に右足を掛けた。次に左足、さらに右足。欧鵬が槍を駆け上がり、飛んだ。

 槍が雷横の刀に叩き斬られた。だが欧鵬は、雷横の頭上を飛び越えていた。着地と同時に雷横の方に向き直り、小刀を抜き放った。そして刃を、雷横の無防備な首筋に当てた。

 勝負ありだ。

 欧鵬が刀を納め、大きな息を吐いた。雷横も、ふうと気を緩めた。

「誰が、器じゃないだよ。まったく」

 雷横が笑いながら二つになった槍を拾い上げる。

「気合入れて、新しいの造らなくっちゃな」

 雷横がにこりと笑い、槍を手に去って行った。

 欧鵬が天を仰ぎ、また大きく息を吐いた。

 欧鵬の顔からは悩みの色が消えていた。

 縮こまっていた金色(こんじき)の翼が、大きく広げられようとしていた。

 日が高く昇ると、汗ばむくらいの陽気だった。

 宋江はひと息入れるために聚義庁を出て、少し歩く事にした。

 向こうから朱仝がやって来た。朱仝は坊っちゃんを連れていた。額にはまだ包帯が巻かれていた。

 滄州知府の元へと返そうとしたのだが、ひげのおじちゃんと一緒にいる、と坊ちゃんが譲らないため、とりあえずここに残す事にした。ただし、額の傷が癒えるまで、である。

 知府の所では、坊ちゃんが攫われたと大騒ぎになっていると、密偵の報告があった。必死の捜索の中、近隣の林で血痕が見つかった。落ちていた衣服の切れ端から坊っちゃんのものであるとされ、知府は数日寝込むほどだったという。

 犯人は朱仝である。死んだ護衛の側にいた朱仝を多くの人間がが目撃していた。さらに朱仝が見知らぬ怪しい男たちと話していた、という証言もあった。

 朱仝は護衛を殺め、坊ちゃんを連れ去り逃亡。邪魔になったからか、その坊ちゃんまでもおそらく手にかけたのであろう。そう結論づけられたのだ。

 すぐさま朱仝の妻と子が梁山泊に連れてこられた。行方不明の朱仝の代わりに、役人は家族を捕らえようとするからである。梁山泊の迅速な対応に、朱仝は素直に感謝した。

 この状況で無事な坊ちゃんを連れて戻ったところで、いかに朱仝が信用されていたとはいえ、申し開きができるとは考えられなかった。

 熟考の末、朱仝はここで生きる道を選んだ、

「これは宋江どの。坊ちゃんも挨拶するんですよ」

「こんにちは、おじちゃん」

「はい、こんにちは」

「この方は宋江どのですよ、坊ちゃん」

「はは、良い良い。見ての通り、私はおじちゃんだ」

 坊っちゃんは、誰でもおじちゃんと呼ぶようだ。朱仝はひげのおじちゃん、雷横はもみあげのおじちゃんと呼ばれているという。宋江は、ただのおじちゃんだ。自分でも言ったが、何の特徴も無いひとりのおじちゃんにすぎないのだ。

 役職が高いとか梁山泊の頭領だから、とかそんな事に関係なく、子供は素直に本質をついてくるものだ。時に子供の言葉に耳を傾ける事も必要だ、と宋江はこのところ思ってもいた。

 ふと、宋江は李逵を思い出した。あの男も、子供のようなものなのだ。

「ところであの男、李逵の事なのですが」

 偶然にも、朱仝が李逵の事を聞いてきた。

「ああ、李逵は滄州に残している。そのまま柴進どのの屋敷で預かってもらっているよ」

「そうですか。いえ、李逵には悪い事をしたな、と。私も頭に血がのぼっていたもので」

「仕方ないさ。ただ、あいつも怒っていてな。お主の顔など見たくないというのだ。まあ、しばらく柴進どのの屋敷で美味い酒と飯をご馳走になっていれば、けろっと忘れるだろう。それに、まだあの時の男が誰だったのか分かっていないのだ。護衛と呼ぶには危なっかしいが、そのためにも残ってもらう事にしたのだよ」

 なるほど、と朱仝が頷いた。その朱仝の袖を、坊ちゃんがしきりに引っ張っていた。

「おんまさん、おんまさん」

「おお、お馬さんを見に行くんでしたな。ではこれで、宋江どの」

 そう言われた宋江だったが、特にする事はないのだ。結局、三人で馬を見に行く事にした。

 厩舎には王英がいた。

「これは宋江どの。朱仝の旦那と坊ちゃんも一緒ですかい」

「坊ちゃんが、馬が見たいと言ってな」

「どうぞ、ご自由にご覧ください」

 朱仝が、おやという顔をした。王英がそれに気づき、嬉しそうな顔になった。

「分かるかい、旦那。さすが元騎兵都頭だけの事はあるってもんだ。あれが林冲の愛馬さ」

 一頭、他とは違って見える馬がいた。気性は荒らそうだが、草を食むその姿にもどことなく誇りのようなものが感じられた。

「林冲が愛馬を預けてくれるんですぜ、俺の腕を信頼してるって事です。なにせ、燕順の兄貴からの直伝ですからね」

「大したものだな、王英」

 宋江の言葉に王英は自慢げに腕を組んで、胸を反らせた。

 燕順は清風山を興す前、王英たちと出会う間には博労をしていた。良い馬を売るため、馬を見る目も世話の仕方も確かなものを持っていた。清風山の強さの理由の一つに。それが挙げられるかもしれない。王英はそれを燕順から直々に教わったというのだ。

 宋江は、王英が馬匹管理の役職に回された時はどうしてと思ったが、なるほど呉用はきちんと各人の能力を知っているという訳か。でなければ軍師は務まらないという事だろう。

「まあ、あいつは林冲以外にはあまり気を許さないから、こっちの仔馬でどうですかい」

 坊っちゃんが、嬉しそうに笑っている。朱仝も宋江も思わず、目元がほころんでしまう。

「これは、宋江さま。朱仝どのも」

 飼葉を運んできた扈三娘が軽く頭をを下げ、挨拶をした。祝家荘での戦いの後よりも、ずっと明るくなったようだ。それにはちょくちょく梁山泊に顔を出す顧大嫂のおかげでもあるようだ。事あるごとに扈三娘を引っ張り出し、皆と交わるようにさせていたようだ。強引ともいえたが、それを感じさせぬ懐の深さを持つ顧大嫂だからこそできる事なのだろう。

「危ない」

 扈三娘が叫び、飼葉桶を放りだして駆けた。振り向いた宋江と朱仝は動けなかった。

 坊ちゃんが仔馬の背から落ちていた。王英も驚いた顔で手を伸べるが届かない。

「坊ちゃん」

 朱仝は叫ぶのが精いっぱいだった。

 だが、地面に落ちる寸前、扈三娘が滑り込み、抱きかかえるように坊ちゃんを受け止めた。

 一同が大きなため息をつき、一気に汗が噴き出した。

「大丈夫、危なかったね」

 扈三娘が愛おしそうに、坊ちゃんの頬に頬を擦り寄せて微笑んだ。そして表情を一変させた。

「何やってるのよ。ちゃんと見てなきゃ駄目じゃない」

「う、うるせぇな。馬がちょっと駆けちまったからだろ」

「なによ、馬の扱いなら任せろとか普段言ってるくせに」

 むう、と王英が顔を赤くして黙り込む。

「ほうら、もう大丈夫ですよ。怖かったわね」

「もっかい、もっかい。おんまさんにのるの」

 坊っちゃんは馬の背から落ちるのが気に入ったのか、きゃっきゃっと笑って扈三娘にせがんだ。

「ほら見ろ。楽しいって言ってるじゃねぇか。思った通りだぜ」

「馬鹿言ってるんじゃないわよ」

「なにを」

「なによ」

 王英と扈三娘は、ぎゃあぎゃあと喧嘩を続けていた。呆れた宋江と朱仝は坊ちゃんを連れ、こっそりと離れた。しかし王英の奴め、完全に扈三娘に負けていたではないか。宋江は思い出し、ほくそ笑んだ。

「もしかしたらあの二人、似合いかもしれませんな。喧嘩するほど、仲が良いと言いますからな」

 朱仝が別れ際にそう言って笑った。

 宋江はふと王英との約束を思い出した。清風山で、いつか良い妻を探してやると約束していたのだ。呉用から他言無用だと釘を刺されたのだが、王英と扈三娘を組ませたのは、またも顧大嫂の提案であったらしいのだ。顧大嫂も、そう考えているという事か。

 考えると孫新と顧大嫂の関係も、どことなく似ているようだ。なるほど、夫婦とは妻が少し強いくらいがちょうど良いのかもしれない、と宋江は妙な納得をするのであった。

 明日にでも父に相談してみよう、と宋江は思った。

 

「あんた、風邪かい」

「ああ、大丈夫だろ」

 遠く離れた二竜山で、菜園子の張青がくしゃみをしていた。

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