108 outlaws
武人
三
梁山泊に緊張が走った。
物見の早馬が駆け戻った。すぐさま軍鼓が鳴らされた。
頭領たちが聚義庁に集まり、晁蓋が床几から立ち上がった。晁蓋の体からは覇気が漲っており、目は爛々と輝くようであった。
「戦だ。これから戦う敵は、今までとは比べ物にならない強さだという。軍師どの」
「はい。東京開封府からの情報によると、約一万の官軍を率いるのは呼延灼という将軍。建国の功臣、呼延賛の子孫である豪傑だといいます」
頭領たちが、特に元軍人だった者たちが明らかに驚きの表情をしている。
「あの呼延灼が率いているのか」
「知っているのか、林冲」
「知っているも何も、軍にいる者ならば知らない者はないというほどの猛将だ」
「ああ、わしのいた青州にも、その名は轟いていたほどだ」
林冲と秦明ほどの将が、どこか憧憬の面持ちになっている。
それほどまでの将という事か。
林冲によると呼延灼は、その強さゆえに開封府からは遠ざけられていたのではないかという。特に童貫が呼延灼の存在を疎ましく思い、汝寧という地に配されたという。
「呼延灼将軍の冷遇に同情している場合ではない。それほどの男が敵なのだ。そうだろう、軍師どの」
花栄が話を戻す。呉用も、そして宋江も花栄の言葉に頷いた。確かに梁山泊はかつてないほどの強敵と戦うのだ。
「敵は間もなく来る。準備を怠るな。総員、出陣せよ」
晁蓋の檄が飛び、頭領たちがそれに応える。
それは聚義庁を震わせるほどの、喊声だった。
冷たい風が吹いている。
風は、凍えそうな木のわずかに残った葉を容赦なくむしり取った。
地面に落ちた葉が、震えた。地響きのような音が聞こえ、そのたびに葉が震えた。
地響きが徐々に近づいてきた。
延々と連なる兵の一歩一歩が地響きだった。
騎兵三千、歩兵五千の合わせて八千の軍勢である。
先頭をゆく、ひと際風格のある将、呼延灼は真っ直ぐに前を向いていた。左右を固めるのは、呼延灼直々に選ばれた副将、韓滔と彭玘である。
韓滔はあからさまに、そしていつも沈着である彭玘さえも昂(たかぶ)っているようであった。
汝寧州から進発し東京開封府へ、そして黄河を越え済州に入った。
すぐに梁山泊が見えてくる。
開封府から兵たちに必要なだけの武具や兵糧が用意され、軍馬も三千頭が下賜(かし)された。
そして出陣まで約半月、みっちりと鍛え上げた兵たちだ。どれも頼もしい顔だ。
吐く息は白いが、幸いにも雪は積もっておらず、この寒さに音(ね)を上げる兵は一人もいなかった。
呼延灼の馬も、ぶるるっと白い息を吐いた。
黒い毛並みは濡れたように艶があり、体躯も他の馬よりも大きくしっかりとしている。それを支える足も、太く逞しい。そして足の先が、雪を蹴ったように白かった。
故に踢雪烏騅。この討伐に際し、帝より下賜された名馬であった。
乗れば乗るほど、良い馬だ。呼延灼は踢雪烏騅の首を軽く撫で、視線を前に戻した。
微かにその威容が見えてきた。
いよいよ梁山泊である。
韓滔が身を乗り出した。
彭玘は口を真一文字に結んでいた。
呼延灼は背筋を伸ばし、微笑んでいた。
いよいよ戦が、はじまる。
軍鼓が高らかに鳴っている。
前線では五人の将が、馬上で呼延灼軍を見据えていた。
秦明、林冲、花栄、扈三娘、孫立である。
「錚々たる軍勢だね」
「気負うな、扈三娘」
林冲はちらりと扈三娘を見たが、すぐに目を戻した。扈三娘は、ふんと鼻を鳴らした。
「まあ、気負うのも無理はないだろう。相手はかの呼延灼将軍だ。登州にもその名は知れ渡っていたからな」
孫立が、とりなすように言った。これから戦なのだ、結束を欠いてはならないと思ったのかもしれない。秦明が笑う。
「まったく孫立の言う通りだ。しかしだからこそ腕が鳴るというものだ。なあ、花栄」
「ふふふ、頼もしい義弟だ。ゆくぞ、みんな」
花栄がそう言って進み始めた。
林冲は、静かに微笑んでいた。
宋江は息を飲んだ。
呼延灼軍が地平を埋め尽くしている。
その軍勢は約八千と聞いている。呼延灼軍は、まずその内の五千を率いて来た。
かたや梁山泊軍はおよそ二千五百。彼我の戦力差は二倍、全軍となれば三倍以上である。
国と戦をする、という晁蓋の言葉が思い出された。
開封府には八百万という禁軍が控えているのだ。その数が誇張だとしても、対抗し得るには同等以上の力がなくてはならないのだ。
この戦は通過点に過ぎない。宋江は覚悟を決め、手綱を強く握った。
呼延灼軍がまずは動いた。
部隊を三つにわけ、二つの隊を左右に展開させた。それぞれ二千の兵である。
梁山泊軍もすぐさま、それに対応する。左軍に朱仝、雷横、穆弘、黄信、呂方。右軍には楊雄、石秀、欧鵬、馬麟、郭盛を配した。ただし割ける兵数は一千ずつだ。
後詰めには宋江率いる軍が、梁山泊を背にして控える形となる。
中央に残った呼延灼軍から一騎、前に出てきた。
「国に仇なす梁山泊の賊どもよ。おとなしく降伏するならば、命は助けてやらぬ事もない」
梁山泊一帯に響くかというほどの、朗々とした声で韓滔が呼ばった。
だがそれを上回るような雷鳴のような声が轟いた。
霹靂火の秦明である。
「笑わせるな、小僧。国に仇をなしているのは、腐った役人どもであろう。同じ軍人として、お前たちに恨みはない。目を覚ますのだ」
「そっちの方こそ、笑わせるな。国を捨てておいて、まだ軍人を騙るか。やはり盗人というわけだな」
韓滔が駆けた。棗木槊を横たえる。それに合わせ、秦明も駆ける。狼牙棒を上に掲げた。
「我は百勝将の韓滔。小僧呼ばわりした事を、あの世で悔いるのだな」
「面白い。できるものならやってみろ。わしの名は秦明。霹靂火の秦明だ。いざ」
韓滔の目が一瞬、驚いたように見開かれた。
この男が、清風山をはじめとする凶悪な山賊どもの跋扈する青州を抑えていたという、秦明なのか。振りかぶった得物は、確かに秦明が得意とするという狼牙棒だった。
だが韓滔は、嬉しさを感じている自分に気付いた。それほどの男と戦える。その想いが、韓滔の手に力を込めさせた。
初撃は、互いの得物が弾け飛ぶのではないかというほどの勢いだった。韓滔も秦明も、弾かれた武器を落とすまい、という格好になる。
この韓滔という小僧、呼延灼が連れてくるほどの男、やはり只者ではない。
秦明が狼牙棒を引き戻し、頭上で回転させた。おお、と雄叫びをあげ、狼牙棒が韓滔に襲いかかる。
今度は秦明が目を見張った。
韓滔は、狼牙棒が顔に当たるすれすれの所で避け、すぐに秦明の懐へと飛び込んだ。そして手首を捻り、棗木槊を回すように勢い付けて突きを放った。しかし秦明は首をひねり、その矛先を何とか避けた。
韓滔は棗木槊を戻し、一度距離を開けた。
一歩、いや半歩。馬の踏み込みが浅かった。韓滔自身は踏みとどまったのだが、騎馬が本能的に少し退(ひ)いてしまったのだろう。無理もない。相手は狼の牙なのだ。
ふっ、と息を短く吐き、再び韓滔が前へ出る。
韓滔が連続で突きを繰り出すが、秦明はそれをすべて受け止めてしまう。韓滔の矛の隙を突き、攻撃に転じようとする秦明。しかし最後の突きが急に、薙(な)ぎに変わった。
正面からの攻撃に力を備えていたが、棗木槊は狼牙棒の柄を横から襲ったのだ。したたかな衝撃を受け、馬ごと秦明がよろめいた。
しかし韓滔はこの好機に追撃ができなかった。いや追撃をしていれば、秦明の一撃を喰らっていたかもしれない。秦明は狼牙棒を落とすことなく握りしめ、すでに反撃の態勢に入っていたのだ。
「良い腕をしているな、韓滔とやら。小僧と言った事は謝ろう。だがわしには勝てぬぞ」
「ふん、あんたこそ、噂通りの強さだな。しかし、いまさら謝っても遅いんだよ」
韓滔と秦明、ふたりの猛将がまた激突した。
宋江は陣中で、思わず拳を握りしめていた。
秦明の強さはもちろんだが、相手の韓滔という将軍の強さも生半ではない。息をするのも忘れるほど、宋江は前のめりになって、二人の戦いの行方を見守った。
二十合も打ち合っていた。何度も冷やりとした場面があったが、どちらも決め手にはなっていない。だが長引くにつれ、韓滔の手数が減ってきた。年季の差が現れたようだ。
それを見てとった呼延灼が飛び出した。韓滔の援護に回るためだ。
しかしそれとほぼ同時に梁山泊側からもひとつの影が走った。
その影は林冲だった。林冲は稲妻のような速度で呼延灼の前に出ると、蛇矛を繰り出した。ぎいん、という金属が軋る音がした。呼延灼が、手にした鞭で蛇矛の軌道を変えたのだ。
さすが呼延灼というべきか。いまの一撃で並の人間ならば、頭に風穴が開いていたところだろう。
呼延灼は力を入れて蛇矛を弾き、林冲と向き合った。
「こいつは林冲、か」
韓滔が呻くように言った。
開封府にいた頃から、その名と姿は知っていた。禁軍に数多くの手練(てだれ)はいるが、王進(おうしん)と林冲の知名度は群を抜いていた。
「どこを見ている。お前の相手はわしだ」
狼牙棒が轟音を上げ襲ってきたが、韓滔はそれを間一髪かわした。
確かにそうだ。他に気を取られたまま、勝てる相手ではないのだ。韓滔は棗木槊を握りなおし、秦明との戦いに意識を戻した。
「禁軍師範、林冲。その名は開封府中に響き渡っていた。お前ほどの男が、なぜ山賊などに成り下がったのだ」
呼延灼がじっと林冲の目を見据えた。
本当に、なぜ、と問うような目であった。高俅との確執を耳にしていないのだろうか。
「答える必要はない。私の方こそ問いたい、呼延灼将軍。なぜ、あなたほどの男が、開封府や大名府ではなく、汝寧州におられるのか。あなたの方こそ、知らぬ者はおらぬほどの軍人ではないか」
その言葉に、彭玘が歯嚙みした。
呼延灼は、どこにいようと国を守ることに変わりはない、と常々言っていた。しかし彭玘も、いま林冲が言ったことと同じ事を思っていた。
はっきりした確証はない。憶測だけでものを言うべきではないが、中央の奸臣たちに呼延灼が疎(うと)まれていたのだろう。
高俅や童貫にとって、彼らを差し置いて手柄を立てる者が近くにいてはならないのだ。実際、呼延灼の他にも、実力とは釣り合わない地方へ送られた将軍もいるのだ。
しかし呼延灼は涼しい顔をしていた。
「林冲ほどの男がそう思ってくれていると知れただけで、わしは良かったと心底思えたよ。だが、わしらは武人だ。お互い、言葉を伝えるのは苦手ではないか。林冲、わしらの言葉はこれだろう」
呼延灼が手の鞭を示す。
「その通りだ」
呼延灼と林冲が同時に駆けた。すぐに距離が縮まり、再び蛇矛と鞭が激突する。
林冲の突きがことごとく、呼延灼の双鞭に弾かれる。それでも林冲の攻撃は止(や)む事がない。しかも緩急を織り交ぜての変幻自在な攻撃である。だが呼延灼はそれを眉ひとつ動かさずに、確実に捌いてゆく。
後方で見守る扈三娘は、二人の戦いに魅入っていた。あの林冲と互角に戦える者がいたのか、と信じられぬ面持ちである。
短く息を吐き、林冲が渾身の突きを放った。
呼延灼が体の前で二つの鞭を交差させた。そのまま下からかち上げるようにして、蛇矛を受け止めた。そのまま両者の動きが止まる。
「さすがだな、林冲」
「ふふ、あなたこそ」
呼延灼がほんの少し体を前に傾(かし)いだ。すると呼延灼の乗馬、踢雪烏騅それに合わせたかのように一瞬足を曲げ、勢いよく踏み込んだ。
呼延灼の体が前に押し出された。その勢いを利用して左手の鞭を、横に思い切り薙いだ。
蛇矛が横に弾かれ、林冲の上体ががら空きの格好となった。そこへ呼延灼の右の鞭が唸りを上げて襲いかかる。
敵にしておくには惜しい男だった。
呼延灼がそう思った時、目の前の林冲が消えた。
鞭はむなしく空(くう)を切り、風を切り裂く音だけが響いた。
呼延灼は、ぞくりとした。
足元の方に光るものが見えた。
その光が呼延灼に向かって近づいてくる。
蛇矛の光だった。
呼延灼は何とか身を捻り、すんでのところで蛇矛をかわす事ができた。
その一撃をかわされた林冲は馬首を返し、距離をとった。
「冷や汗をかかされたわい」
そう言いながら呼延灼が汗をぬぐった。
鞭は、確実に当たっていたはずだった。
だが林冲の愛馬が足を折り、沈みこんだ。呼延灼の視界から消えた林冲は、馬が立ち上がる勢いを利用して、下から突きを放ったのだ。
「すまんな」
呼延灼にではない、馬にそう言ったのだ。
林冲が首を撫でると、馬は不機嫌そうにぶるると鼻を鳴らし、首を振った。
人馬一体、か。
踢雪烏騅がちらりと呼延灼を振り返った気がした。
そうだ、この踢雪烏騅も負けてはいないのだ。
下賜された時、すぐに名馬だと分かった。毛並み、艶、筋肉の張りそして堂々たる風格。 さすがは帝が所有していただけの事はあった。
初めは呼延灼も手こずった。これだけの馬だ、自分が乗せる者を選ぶのであろう。
戦までは半月しかない。しかし呼延灼は辛抱強く、踢雪烏騅と接した。やがて踢雪烏騅は呼延灼を認め、その背に乗せた。
乗ってみて改めて名馬だと感じた。
時を忘れ、踢雪烏騅と共に原野を駆けた。頬を切り裂くような寒風が、かえって心地よいと感じた。踢雪烏騅もひとりの兵であり、かけがえのない友となった。
踢雪烏騅は、呼延灼の意を汲み取って動いてくれる。先ほどの防御からの反撃の時もそうだ。
だがそれは林冲と愛馬も同じだったようだ。培(つちか)った月日では向こうの方が上か。
しかし負けるわけにはいかない。
思った時、踢雪烏騅が駆けだした。呼延灼が鞭を構え、吼える。
林冲の馬も駆けた。蛇矛を斜め下向きに構え、吼えた。
馳せ違い、得物がぶつかり合い、火花が散った。
呼延灼はすぐさま馬首を返し、林冲を追う形となる。すかさず林冲が速度を落とし、二騎が横に並んだ。
どれほど打ち合っただろうか。
林冲と呼延灼は大粒の汗をかき、互いの愛馬の息も荒くなってきた。
「将軍、加勢します」
彭玘が飛び出した。手には三尖両刃刀。その刃が煌めいていた。
呼延灼が大きく鞭を振り下ろし、林冲との間に空隙を作った。
林冲は視界に敵将を捉えた。退(ひ)き時か。
林冲は呼延灼を深追いせず、馬を下がらせた。
「私が相手だ。休んでいてくれ、林冲」
銀槍を高々と掲げ、花栄が飛び出した。
花栄が槍を繰り出すが、彭玘はそれを華麗にかわし、両刃刀で斬りつける。だが花栄は両刃刀を難なくかわし、次なる一手を繰り出す。
槍は彭玘の顔面を狙っていた。しかしその槍は瞬時に、彭玘の腹のあたりを狙う軌道へと変化した。
互いの武器がぶつかる。
彭玘が真っ直ぐ、焦る様子もなく花栄を見つめていた。花栄の眉がぴくりと動いた。
腹を狙った槍が、両刃刀で見事に防がれていたのだ。
「やるな、若造。名を聞いておこうか」
「賊に名乗る名などありません」
「ふん、獲った首の名前が分からなくては、つまらんではないか」
だが彭玘は、挑発めいた言葉にも乗らず、花栄を見据えていた。
ふん、と鼻を鳴らし、花栄は防がれた槍を押しこみ、その反動で一度離れると槍を回した。
「奴ら、なかなかやりますね」
「敵を褒めている場合ではない、韓滔」
彭玘が飛び出した隙を狙い、韓滔も秦明との戦いから離脱していた。呼延灼と並び、彭玘の戦いを見守っていた。韓滔がごくりと唾を飲み込んだ。
花栄の槍が無数に閃(ひらめ)いた。銀鎗将とも呼ばれる花栄の本領発揮だ。
その槍を、彭玘が次々と弾き、捌き、去(い)なしてゆく。
まるで、どこに攻撃が来るのかが分かるかのように、正確に対応してゆく。
「小癪な」
さすがの花栄も唸った。そしてさらなる一手を繰り出した。
槍はまたも彭玘の顔面を狙っていた。だが寸前で軌道を変え、腹を狙う。少し前に見せたのと同じ手だ。
ここでさらに槍が方向を変えた。槍は腹から右の肩口へと向かった。
しかしその槍は、彭玘が肩口で構えていた両刃刀に阻まれた。花栄の瞳が険しくなった。
花栄が槍を弾き、馬を返した。
梁山泊の陣から、扈三娘が進み出た。
「気を付けろ、扈三娘。あの男、おそらくは」
扈三娘は無言で頷き、馬を進めた。
花栄は扈三娘の背を見守り、思う。おそらくあの男、攻撃が読める。
扈三娘ほどの腕だ、いまの攻防で気が付いているはずだ。
花栄はあえて同じ手を放った。顔から腹への変化である。
すぐれた武人なら、これも誘いの手だと分かるだろう。そして腹の次にどこを狙うのかを見極める事になる。
また顔か、それともそれが誘いでそのまま腹なのか。どうしても花栄の動きから反応するしかない。
しかし、である。あの男は迷わずに、肩口に両刃刀を差し出していた。
まるでそこへ吸い込まれるように、花栄の槍が向かったのだ。
分かっていた、としか思えないのだ。
戦の場にまるでそぐわない美しさだ、と彭玘は思った。
優雅に馬を進める扈三娘。やがて一丈と少しの距離になると、あくまでも優雅に二つの刀を抜き放った。
眉間を貫くような冷気を、彭玘は感じた。
それはどんな寒風よりも冷たいものだった。
彭玘は、先ほどの考えが間違いである事を悟った。