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亡国

「何者だ、貴様ら」

 李逵と魯智深が、遼兵に呼び止められた。

「見つかってしまったようだな」

「こそこそと逃げるのは性に合わねぇ。こうなりゃ、ひと暴れしてやろうぜ、魯の兄貴」

「まったく、お前は。しかし今回は賛成だ、鉄牛」

 逃げるどころか、嬉々としてこちらへ向かって来る二人を見て、その兵は悲鳴を上げた。そして脱兎の如く逃げてしまった。

「なんだよ、意気地のない野郎だ」

 魯智深と李逵が角を曲がると、二十人からの兵が待ち構えていた。その中に、先ほど逃げた男の顔があった。

「がはは、面白いではないか」

「そうこなくっちゃな」

 魯智深と李逵が遼兵の中に突っ込む。兵たちは数で制しようとするが、魯智深と李逵の拳や蹴りで、弾き飛ばされてしまった。兵のひとりが鼻から血を流しながら、応援を呼ぶために逃げて行った。

 二人は武器を奪い、城内を駆ける。

 喚声が聞こえ、二人が進む通路の前後から大量の兵が殺到してきた。

 咄嗟に魯智深と李逵が背中合わせになり、構える。

 遼兵は動けない。二人の強さを目の当たりにしたからだ。

 睨み合いが続く。

 このままでは埒が明かない。

 やるか、李逵。

 おうよ。

 目で合図を交わす。

 二人が一歩踏み出した、その時、李逵側の兵たちの背後が騒がしくなった。

 悲鳴や怒号が大きくなる。

 遼兵が次々に倒れてゆく。

 そしてその中から、武松と燕青が現れた。

「こっちです、行きましょう」

 燕青が言いながら兵の一人に拳をねじ込む。魯智深と李逵はにやりと笑った。

 武松が殿に立ち、妖刀の切っ先を遼兵たちに向ける。

 武松の圧倒的な気と、不気味な妖刀を前に、誰ひとりとして動ける者はいなかった。

 

 抵抗していた遼軍も、兀顔光が討たれたと知るや、次々に武器を捨てた。

 王を追っていた盧俊義らも合流した。

 宋江が梁山泊軍を率い、燕京に迫ろうとしていた。

 静かだった。

 当然いると思っていた遼軍がいなかった。陣さえ敷いてはいない。

 潜ませているのか。

 勝利を重ねているとは言え、梁山泊はいまや獅子の口の中だ。

 解珍、解宝や段景住を斥候に走らせながら、宋江は慎重に軍を進ませる。

 間もなく燕京というところで、こちらに何人か駆けてくるのが見えた。警戒をしたが、何者かを確認した宋江が喜色を浮かべた。

「無事だったか、李逵。魯智深、武松もご苦労だったな」

「もちろんです、兄貴。きっと助けてくれるって、おいらは信じてましたぜ」

 大笑した李逵が、抱きつかんばかりに駆け寄った。

 盧俊義は燕青の報告を受け、渋面を作った。

 褚堅が消された。暗殺者は、以前東京開封府で襲われた相手だったという。

 この手で鉄槌を下すことはできなかったが、褚堅め、あの世で後悔しているだろう。

 燕京城を包囲する形に展開させながら移動を再開する。

 見えた。

 緊張の糸が張りつめる。

 遼軍が出てくる気配は、まだない。

 雲梯を組み、攻城戦の準備を始める。

 時は満ちた。

 宋江の合図を待つ梁山泊軍。

 突如、報告が届く。

「どうしたのだ、段景住」

「どうもこうもありません」

 困惑した表情の段景住の後から、数騎が駆けこんできた。

 何かを掲げた、先頭の一騎が大声で告げた。

「控えろ、聖旨である」

 宋江は、そして梁山泊軍は、愕然とした。

 燕京への攻撃を中止し、ただちに軍を撤退せよという帝の言葉だった。

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