
108 outlaws

鳳雛
三
三昧神水の術が破られた。
何故だ。向こうには術を使うものはいなかったようだが。
昭徳が戦勝気分の中、喬道清はひとり浮かない顔だった。
釈然としない喬道清の元に、昭徳の将孫琪が姿を見せた。
「準備ができております」
捕らえた梁山泊の頭目たちが後ろ手に縛られ、並ばされている。
李逵、項充、李袞、劉唐。そして裏切り者の唐斌を、喬道清が見下ろす。
「話は聞いていたが、とんだ喰わせ者だな。孫安の見込み違いだったようだ」
「ふっ、自分の見る目がないとは考えられないのかい」
不敵に笑う唐斌。喬道清も同じように微笑む。
孫琪がいきなり唐斌を殴りつけた。唐斌が血の混じった唾を吐いた。
「田虎さまに逆らう逆賊め。本当なら首が飛んでいるところだぞ」
見ていた李逵が噛みつかんばかりに吼えた。
「手前ぇ、何しやがる。この黒旋風の李逵さまがぶん殴ってやる」
両肩の筋肉が盛り上がり、縄がみちみちと音をたてはじめる。
驚いた孫琪が、部下たちをに命じ棒で取り押さえさせた。
「さがれ、孫琪」
ばつが悪そうな顔をする孫琪。
非礼を詫び、一同を見渡す喬道清。
「お主たち、腕が立つようだな。田虎さまの軍門に下らぬか。共に腐った世を正そうではないか」
場が静寂に包まれる。そして、静かに、劉唐の笑い声が聞こえた。
「くっくっく、見る目がない、か。確かに唐斌の言う通りだ」
一同が笑いだす。
孫琪が、静かにしろと命じるが、聞くはずもない。
項充と李袞も言う。
「まったくだ。命が惜しくて田虎の下につくと思ったのか。見くびられたもんだぜ」
「ああ、俺たちは死ぬまで梁山泊だ。いや、あの世でも梁山泊さ」
喬道清が激昂した。
「そこまで言うなら、死ぬが良い。こいつらを連れて行って。処刑してしまえ」
「わはは、望むところだ。斬りたいなら何百回でも斬ったらいい。ちょっとでもおいらが眉をしかめたら、好漢とは呼べぬわい」
「良く言った、李逵。くそ道士よ、首を切り落としても、俺たちのこの鉄の膝は簡単に屈することはないぜ。よく見とくんだな」
李逵と劉唐がそう言って、爽やかに笑った。
兵たちが李逵らを引き立ててゆく。
喬道清は、抵抗することなく連れられてゆく姿に何故か引きつけられた。悪態をつく孫琪の言葉も聞こえなかった。
床几に腰をおろしたが、落ち着かない。なにか、間違いを犯したのではないかという思いが、喬道清を突き動かした。
「処刑を止(や)めろ」
そう口走っていた。
「何か、他に使い道があるはずだ」
と言い訳のように添えたことを悔いた。
見る目がないだと。あいつらに何が分かる。そう思う喬道清の脳裏に、羅真人の姿が浮かんだ。
そして、幼い頃の、あの弟弟子(おとうとでし)の姿も。