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布陣

一

 気だるさと共に目を開けた。

 ここは、どこだ。

 見なれない天井だ。

「気分はどうかね、張清」

 頭がまだぼんやりとする。だが声の主が安道全であると分かった。

 首に矢を受けたことを思い出した。

 そこからの記憶が曖昧だ。死ぬと思っていたが、生き延びたようだ。

 何か言おうとして、上手く声にならなかった。

 安道全が水を飲ませてくれた。

 ゆっくりと起き上がる。

 包帯を巻かれた首のあたりが突っ張るようだ。

 楊雄と石秀が、薊州の医者に応急処置をさせたおかげだという。

「あの後、どうなったんです」

「いまだ続いておる。どうやら遼の国王と名乗る者が元凶のようだ」

 龔旺と丁得孫も、遼に向かっているという。

「おい大将。丁得孫と同じになったな」

 眠る張清に、龔旺が冗談を飛ばしていたという。

 丁得孫も過去、首に矢を受けたのだ。

「お主は駄目だ。まだ養生が必要だ」

 戦線に向かうという張清の意見は却下された。

 それに抗議しようとして、寝台を下りた途端にふらついた。

 安道全の診立ては、確かなようだ。

「しばらく待て。お主が治る頃には、連中が朗報を持って戻ってくるだろうて」

「わかりました」

 張清はそう言って、寝台に腰かけた。

 頭がすっきりとしない。怪我のせいなのか、薬のせいなのか。

 眠っている間、なにか夢のようなものを見た気がするが思い出せない。

 皆が寝静まった頃、夜詰めの花小妹が看病に訪れた。

 花小妹が慌てて、安道全を起こした。

 二人で張清の部屋に駆けこむ。

 目を閉じたままの張清が、腕を振ったり、足を蹴るようにしているのだ。夜具は床に落ちてしまっていた。

 額に手を当てるが熱はない。首の傷も破れてはいないようだ。

「どうやら夢を見てるようだな」

「発作が起きたのかと思いました」

 花小妹がほっと胸をなでおろす。

「今日はもう休みなさい。起きてしまったし、後はわしがやろう」

「申し訳ありません。ですが、先生こそお休みになってください」

 花小妹が毅然と言った。兄の花栄と同じく、意外と頑固なところもあるのだ。

「そうだな、頼んだぞ。だが無理はするな。お主が倒れては、他に頼る者がおらぬのでな」

「お弟子さんを取れば良いのに」

「わしは口うるさくて偏屈な年寄りらしいからな。弟子を取ってもみんな逃げていくのだ」

 じゃあ頼んだぞ、ともう一度言って、安道全が部屋を出た。

 弟子か。弟子と呼べるのは、一人くらいか。

 そ奴も今は何をしているのか。

 安道全は寝床で、まんじりともせず朝を迎えることになった。

 張清はすでに起き上がっていた。

 掌を見つめ、握ったり開いたりしている。

「どうした。手の調子がおかしいのか」

「いえ、そうではないのですが。夢を、見たようなのです」

 安道全は昨夜の様子を思い出す。

「どんな、夢を」

 遠くを見るような目を、張清がする。

 そしてもう一度掌を見る。

「はっきりとは、覚えていないのです。ただ、誰かに礫を教えていたようです」

「夢の中で礫を、というのか」

 張清が神妙な面持ちで頷き、掌を差し出してきた。

 それを見た安道全が、あっと声を上げる。

 張清の掌に、丸く赤い跡がついていた。

 丁度、張清が使う礫と同じくらいの大きさだった。

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