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星辰

 真っ赤な軍装、丙丁の火軍が遼兵を焼き尽すかのように暴れ回っている。

 率いる秦明が狼牙棒を唸らせ、駆けまわる。それを見ていた龔旺が血を滾らせた。

「おい、丁得孫。大将の分まで暴れ回ってやろうじゃねぇか」

「うちの大将は、暴れ回りはしないだろう」

「良いんだよ、細かい事は」

 笑いながら龔旺が敵の中へ飛び込んでゆく。

 まったく、と苦笑しながら丁得孫は思う。確かにうちの大将が受けた借りをきっちりと返さねばならない。

 今日のところは龔旺に賛成だ。丁得孫も敵へと突っ込んでいった。 

 大将とは張清の事だ。張清が梁山泊に運ばれてきた時、意識を失っていた。首に矢を受けたのだという。

 いつもなら怒り狂うはずの龔旺は、意外にもそれを自制した。

 拳を戦慄かせながら、

「必ず報いは受けさせるからよ。それまでに目ぇ覚ましとくんだぜ」

 と病室を出て行った。

 長年、相棒を務める丁得孫も意外だった。そしてそんな龔旺を誇らしく思った。

 龔旺がその怒りを、いま遼軍に存分にぶちまけていた。

 己の得物である巨大な投槍を飛ばし、遼軍を怯ませる。そのまま馬を走らせ、立ちすくむ兵たちの武器を片っ端から奪ってゆく。そしてその武器を片っ端から投擲するのだ。槍はもちろん、刀でも、剣でも、楯でさえも龔旺にとっては武器なのだ。

 龔旺を追いかけるように、丁得孫も飛叉をぶん回し、近づく敵を攻撃し続ける。

「ずいぶん馬鹿な戦い方をする者がいたものだ。所詮、水たまりの山賊か」

「まったくだ。野蛮そのものだな」

 龔旺と丁得孫の前に星宿将が待ち構えていた。

 参水猿の周豹と、奎木狼の郭永昌だった。

「あん、何だこの野郎」

「待て、挑発に乗るんじゃない」

「ふん、乗ってやろうじゃねぇかよ」

 丁得孫の制止も聞かず、龔旺が駆けた。

 持っているのは槍が二本と刀が三本。まず槍を二本飛ばす。

「笑止」

 周豹が棍で、難なく弾き飛ばす。

 おらあっ。次に矢のような速度で、刀を飛ばした。

 龔旺がにやりとする。三本同時に、落とす事などできまい。

 周豹は腿に力を入れ、鞍にぐっと腰を落とした。

 気合と共に棍を突く。一本を棍の先で叩き落とすと、周豹は手首を捻った。

 すると棍の先がぐにゃりと撓った。獲物を襲う蛇の頭のように二本目、三本目の刀を落としてしまった。

「芸達者なもんだな」

 強がりも空々しく聞こえる。龔旺は周囲を見る。得物はすべて投げてしまった。さて、どうしたものか。

 龔旺に向かって郭永昌が駆けだした。手には刀が鈍く輝いている。

 舌打ちし、龔旺が斜めに駆けた。

「させるか」

 郭永昌が妨げようと迫る。

 鞍上で斜めになった龔旺が手を伸ばす。倒れている兵の側に、槍が突き立っている。

 郭永昌の刀が、龔旺の手首に襲いかかった。

 捕れなかった。

 すんでのところで引っ込めたが、手首にうっすらと血が滲んでいた。

 再び馬を旋回させ、武器を捜す。郭永昌は龔旺に馬を寄せた。刀を高く上げ、龔旺の首元に狙いを定め、振りおろした。

 郭永昌がびくりとした。龔旺が凶悪そうな笑みを浮かべていた。

「へへ、わざわざありがとうよ」

 龔旺は郭永昌の腕を捕り、ぐいっと引き寄せた。そして、目を丸くする郭永昌を、何と頭上に抱え上げてしまった。

 腿で馬を操り、向きを変える。周豹の方向だ。

 脱出しようともがく郭永昌だが、龔旺の膂力に押さえつけられ身動きが取れない。

「どっちが曲芸だ」

 周豹が棍を構える。

 そこへ何かが飛来した。丁得孫の飛叉である。

 もう一人おったな。周豹は慌てず、飛叉を落とすため棍を繰り出す。

 しかし飛叉が空中で止まった。

 馬鹿な。

 丁得孫が、飛叉に付いている鎖を寸前で引いていた。

 勢いを止められずに、棍が空を切る。

 おおお、と雄叫びをあげる龔旺。

 無防備な周豹に向けて、郭永昌を渾身の力で投げ飛ばした。避けようとする周豹に向けて、再度飛叉が襲いかかる。

 周豹は判断に迷った。なす術のない周豹は防御したが、激しい音と共に郭永昌が激突した。

 もんどりうって二人が落馬する。

 龔旺が自分の槍を地面から抜いた。

「次だ、丁得孫」

「ああ」

 地面で呻く周豹と郭永昌の元へ、梁山泊兵が殺到した。

 鬼のような咆哮を、劉唐が上げる。悲鳴を上げる暇もなく、婁金狗の阿里義が真っ二つにされた。

 その側では雷横が、昴日雞の順受高と戦っていた。手数の多い順受高に苦戦をしていたが、雷横が粘り勝った。

 刀の血を拭きながら劉唐が毒づく。

「おい、腕が落ちたんじゃねぇのか」

「余計なお世話だ。黙って敵を倒してろ」

 雷横は言いながらも、どこか嫌ではなかった。

 周通が畢月烏の国永泰を倒した。

 それを見ていた魏定国が、觜火猴の潘異を斬り伏せ、単廷珪に言った。

「よし、この陣もあと少しだな。しかし単廷珪よ」

 胃土雉の高彪に縄をかけていた単廷珪が顔を上げた。

「赤の軍装も良いもんだろう。これからそれにしろよ、似合っているぞ」

「やめろよ。俺は壬癸の軍に配属されたかったんだ」

「くく、そんな事言うなって」

 おい、と周通が割って入る。

「もうこの陣は、終わるぞ」

 三人の視線の先には、秦明がいた。

 狼牙棒を高々と掲げ、大将である太白金星の烏利可安に向かって駆けている。

 烏利可安も雄叫びを上げ突進するが、狼牙棒がその胴に噛みついた。

 嫌な音を立て、烏利可安は馬から落ち、そのまま動かなくなった。

 秦明が拳を突き上げ、吼えた。

 丙丁の火軍が、敵陣を燃やし尽くした。

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