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再起

 追いついた関勝たちが見たのは、地に倒れ伏した魏定国と郝思文だった。

 まさか、この二人が敗れたというのか。宣贊が剛刀を抜き放った。

「おい、お前たち。覚悟しろ」

 無言で単廷珪も槍を構え、駆けた。

 それを巨漢二人が迎え討つ。他の山賊たちは、余裕の表情で見ている。

 巨漢たちは強かった。宣贊の剛力をも軽々と受け止めてしまうほどだ。単純な膂力の勝負では負ける。

 そう思われた時、関勝がゆっくりと進み出た。

 青竜偃月刀を斜めに構えた関勝を見て、巨漢たちが半歩後ずさった。

「わしがお相手をしよう」

 ずいと関勝が馬を進める。

 巨漢たちが、宣贊と単廷珪を放りだし、関勝に向かった。

 単廷珪がその戦いを見守る。

 強い。二人を相手取り、それでも押し始めた関勝の強さを改めて実感する。

 巨漢たちの息が乱れてきた。

 宣贊は関勝の勝ちを確信した。だがその時、山の方から一騎が飛ぶように駆けてくるのが見えた。

 宣贊と単廷珪が目を見合わせた。これだけ離れていても分かるほどに、強い。

 疾風の如く駆けてきたその男が、そのままの勢いで関勝に向かった。関勝も巨漢から距離をとり、男に向きなおった。

 関勝の表情が変わった。青竜偃月刀を構える。

 男の顔は兜で見えない。男が矛を振り上げた。

 関勝と男が激突した。火花が飛んだ。偃月刀と矛が、ぎりぎりと咬み合っているようだ。

 突如、両者が馬を下がらせた。

 得物を構えたまま睨み合い、しばし時が止まったようになる。

 二人がほぼ同時に声を上げた。

「お主、まさか」

「お前、まさか」

 男が兜を取った。

 関勝が大笑した。

 宣贊だけではなく、巨漢たちも呆気に取られた。

「やはりお主か、唐斌。生きていたとは、驚いたぞ。腕は落ちておらぬようだな」

「お前の方は、少し鈍ったんじゃないのか、関勝」

「ふふ、お主には敵わんな。して、こんな所で何をしている」

「ふん、戯(たわむ)れだ」

 唐斌はつまらなさそうに唇を歪めた。

  

 山寨の広間に、関勝たちはいた。

 郝思文と魏定国の意識が戻り、酒が運ばれてきた。

 関勝以外の全員が状況を飲み込めずにいた。この唐斌という山賊と知り合いのようだが、何者なのか。

 唐斌が中央に座し、左右に巨漢がそれぞれ控えている。

 ひとまず杯が干される。

 関勝が切り出した。

「さて、教えてもらおうか。どうしてお主がここにいるのだ」

「見れば分かるだろう。俺は、この山を仕切ってる」

 唐斌が山寨を構えるここは、抱犢山というようだ。

「田虎と関わりが」

 ふん、と唐斌が鼻を鳴らし、酒を飲んだ。

「あったらどうだと言うのだ。お前には関係あるまい」

「そうだな。まあ、お主はお主だ。とにかく生きていてくれて、わしは嬉しいぞ」

 関勝が杯を空け、唐斌を見据える。その目が潤んだように見えた。

 あ、と郝思文が声を上げた。

 まさかこの唐斌とは、かつて関勝がその背を預けていたという男ではないのか。確か、戦で死んだと聞いていた。いや生死不明であったか。

 ともかく、その男だとしたら、

「あなたが天王、なのですか」

 郝思文は声に出していた。

「そうだ、こ奴が天王の唐斌だ」

「やめてくれ、関勝。その名は捨てた。いや、奪われた。今はあの李成が名乗ってるらしいじゃないか」

 何か言いたそうに、郝思文が身を乗り出したが、関勝が無言でそれを止めた。

「俺の方こそ聞きたい。どこへ行くつもりだったのだ。知っていると思うが、ここら一帯はすでに田虎の領内だ。いつ襲われてもおかしくはないのだぞ。まあ襲ったのは俺たちだったがな」

 唐斌は言って、苦笑いした。

 関勝は魏定国と単廷珪を見た。話しても良いか、というのだ。察した単廷珪が、それに答えた。

「孫安という人を探しています。ぶしつけですが、どこにいるかご存じないでしょうか」

「存じないね」

 唐斌が即答した。

「しかし孫安ねぇ。だからこんな所まで来たって訳かい。梁山泊が、田虎軍の人間に会おうとしてるとはな。まあ、どんな関係かは聞かないがね」

 と残りの酒を飲み干した。

 そこへ手下が飛び込んできた。

 唐斌の手に、壺関の山士奇からの手紙が渡された。梁山泊軍の攻撃を受けている。即刻、救援に参じよという要請であった。

 唐斌の顔が曇った。

 思わず宣贊が呟いた。

「梁山泊軍が、近くに来ているのか」

 唐斌の目が険しくなる。

 場の空気が張り詰めたように感じた。

 唐斌が酒を飲もうと杯を取ったが、すでに空だった。不機嫌そうに、それを投げ捨てると、さらに不穏な空気が増した。

 関勝たちは梁山泊軍。唐斌は田虎軍。相容れぬのだ。

「では、わしらは行くとしよう」

 関勝が立ち上がった。郝思文らは、すぐに反応できず、関勝を見上げる。

「お待ちください」

 巨漢の一人が頭を下げ、言った。

 男は、撼山力士の文仲容と名乗った。

 唐斌は煩わしそうに制止する。

「いいえ。話させてもらいます」

 移山力士の崔埜という、もう一人の巨漢が立ち上がった。

 文仲容と崔埜が唐斌をじっと見る。唐斌の目がさらに険しくなったが、ふいに肩の力を抜いた。 

 勝手にしろ、と諦めたように言った。

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