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急襲

 敵を追っていた索超に向かって、別の一団が襲いかかってきた。

 縻甠である。

 索超は金蘸斧を構え、縻甠を見据える。

 左謀から授けられた策など覚えていないし、従う気もさらさらなかった。はじめから敵の大将格を狙うつもりだったのだ。 

「かかっ、水溜まりのこそ泥どもめ。あんな能無し天子のために、わざわざ命を捨てに来るとは、全くおめでたいな」

「ほざけ、この凶賊め」

 索超が真っ直ぐに駆けた。縻甠はにやりとして迎え討つ。手にする得物は長柄の大斧。ふたつの斧が激突した。

 三合ほど打ち合い、索超が気付いた。相手の技は我流だ。だがそれ故に、定石を踏まない攻撃を仕掛けてくる。それが油断できなかった。

「おらおらおらあ、行くぜぇ」

 突っ込んできた縻甠に隙が見えた。斜め上段から金蘸斧を斬りこむ。しかし索超は驚くことになる。

 なんと縻甠は防御することなく、馬の速度を上げたのだ。

 金蘸斧の当たる場所がずれてしまい、縻甠の肩を軽く斬っただけだった。

 そこへ縻甠の斧が襲いかかる。索超は体を捻り、辛うじて避けた。そして縻甠を突き放し、金蘸斧を振るう。

 再び打ち合いとなった。やはり力量の差は大きく、次第に縻甠の傷が増えてゆく。しかし縻甠の手数は減る事がない。

 なるほど、全身の傷跡の理由はこれか。

 苦笑する索超。血塗れになりながら嬉々とする縻甠に、鮑旭(ほうきょく)を思い出した。あの男と戦う相手の気持ちが、いま分かった。

 索超は自らを鼓舞するように雄叫びを上げた。

 秦明は、背後に気配を感じた。

 王慶軍の新手だ。それも騎兵。

 一騎が迫って来る。

 何かが飛来する音。矢か。秦明は狼牙棒を回し、その何かを弾いた。

 矢よりも重い手応えだった。飛刀の類か。しかし、と秦明は警戒を緩めない。なぜなら弾いたそれが、地面に落ちなかったからだ。

 鉄頭蛇の陳贇である。

 秦明を見据え、右手を挙げて回すようにした。鄧飛が使うような鉄鏈だ。先刻飛来したのは、この鉄鏈の切っ先だったのだ。

 鉄鏈が蛇の頭のように秦明に襲いかかる。秦明は狼牙棒で巧みに弾く。鉄鏈の攻撃は執拗だった。弾かれても弾かれても、あらゆる角度から何度も秦明を襲う。

 大した腕だが、それだけだ。脅威ではない。

 その時、梁山泊兵が五人ほど、陳贇を囲んだ。陳贇は臆する風もなく、じゃらりと鉄鏈を鳴らした。

 陳贇の右手が素早く動いた。梁山泊兵たちが呻いた。だが鉄鏈での攻撃は、かすり傷程度しか与えられなかった。

 梁山泊兵が一斉に襲いかかった。だが、陳贇に辿り着く前にびくりと体を震わせると、馬から滑り落ちてしまった。

「どうした」

 秦明が一人を助け起こした。兵の顔は青ざめ、真冬のように体を震わせている。突如、兵が何かを吐きだした。

 血だ。

 そして兵は口元を血と泡で塗れさせ、事切れた。他の兵も同じだった。

 これは。毒か。

 そこへ陳贇が迫った。再び鉄鏈の応酬。初め、蛇のようだと思った。そしてこの蛇は、毒蛇だったという訳だ。

 卑怯な、とは思わない。ここは戦場で、どうやら敵は罪人のようだ。

 鉄鏈は狼牙棒の敵ではなかった。だが、攻撃は止まらない。先ほどよりも速度を増し、あらゆる方向から毒蛇の牙が襲いかかってくる。近づく事も出来ない。

 秦明は歯を食いしばり、必死に捌き続ける。かすり傷さえ許されないのだ。

 手が乱れ、狼牙棒を落としてしまった。

 その隙を見抜き、鉄鏈が秦明の首筋を狙った。辛うじて秦明は避(よ)けた。そして鉄鏈を掴むと、渾身の力を込めた。引っ張られた陳贇が、つんのめるように馬から落ちた。

 いや違う。自ら飛んだのだ鉄鏈を離し、手刀を構え、秦明に向かって迫った。陳贇は黒い手甲を嵌めていた。

 秦明は気付いた。毒手だ。

 おおっ、と秦明が霹靂の如く吼えた。

 両手で陳贇の手首を掴み、捕えた。そして思い切り頭突きを放った。陳贇の鼻柱が砕かれた。この隙に、狼牙棒を手にする。

 鼻血を噴き出させ、喘ぎながらも陳贇が毒手を繰り出そうとした。

 だが狼の牙が、鉄頭蛇の頭を砕くのが先だった。

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