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遭遇

 降り積もる雪を眺めながら、宋江がひとり窓辺に佇んでいた。

 弟の宋清は先日、鄆城県(うんじょうけん)の家へ帰らせた。残してきた父と宋清の家族が心配だったからである。

 そのついでにではあるが、宋清にはその後の情勢を手紙で知らせてくれるように言ってあった。

 宋江は手にした手紙をもう一度、広げた。

 宋清からのものではなかった。

 かつて宋江の元へおしかけ弟子にやって来た兄弟からの手紙であった。閻婆惜にもそんな話をしたな、と思い出し胸が苦しくなったりもした。

 ここにいる事が世間に広まっているのか、彼らが柴進の宅へ送ってきた手紙だった。そこには、ぜひ彼らの家へ来てほしいという旨が書かれていた。かつての恩返しをしたいというのだ。

 彼らの住まいはここから西にあたる青州(せいしゅう)にあった。

 柴進までとはいかないが、父親がひとかどの金持ちで、その兄弟たちは暇があれば各地の好漢たちと知り合おうとしているという。

 その中にはいわゆる山賊と呼ばれる者たちも含まれており、晁蓋のいる梁山泊はもとより、生辰綱強奪現場の近くにある二竜山や桃花山などにまで手紙を送っている事が書かれていた。

 なんと危険な橋を渡るものだ、と宋江はその手紙を燭台の炎の上にかざした。

 あっという間に手紙は燃え尽き、燃えかすが黒い蝶のように舞っていた。

 一通の手紙が人の生き死にを左右することがあるのだ。

 閻婆惜の顔が頭に浮かんだ。

 次に会う時には、師匠らしい言葉をかけてやろう、そう思いながら宋江は返事を書くために部屋の外へ向かった。

 黒い蝶がまだ部屋の中で揺らめいていた。

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